ムーアヘッドの不等式,並び替え不等式 / 2019 トルコ ジュニア 第2問

問題概略

 x,  y,  z は正の実数であり  x^5+y^5+z^5=xy+yz+zx をみたす。
次の不等式を証明せよ。

 3\geqq x^2y+y^2z+z^2x

https://artofproblemsolving.com/community/c6h1974293p13695125

解説の pdf も作りました。きれいなレイアウトで読みたい方はこちらをどうぞ。

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斉次化して下準備

まずは与えられた条件を使って,示すべき不等式のすべての項の次数をそろえます。

\begin{align*}
&3\cdot \frac{x^5+y^5+z^5}{xy+yz+zx}\geqq x^2y+y^2z+z^2x\\[3pt]
&\Leftrightarrow 3(x^5+y^5+z^5) \geqq (x^2y+y^2z+z^2x)(xy+yz+zx)\mbox{ ……(1)}
\end{align*}

右辺を展開するとこうなります。

\begin{align*}
\underbrace{x^3y^2+y^3z^2+z^3x^2}_{\text{(2)}}
+ \underbrace{x^3yz+xy^3z+xyz^3}_{\text{(3)}}
+\underbrace{x^2y^2z+xy^2z^2+x^2yz^2}_{\text{(4)}}
\end{align*}

(2)は並び替え不等式で処理して,(3)(4)はムーアヘッドの不等式で処理します。
以下,一般性を失うことなく  x\geqq y\geqq z\, (>0) とします。

並び替え不等式

並び替え不等式は「大きいものどうしかけた方が大きい」という不等式です。

数列  \{x_n\},  \{y_n\} を広義減少列とします。

 x_1\geqq x_2\geqq \cdots \geqq x_m,\, y_1\geqq y_2\geqq \cdots \geqq y_m

 \{y_n\} を適当に並び替えて得られる数列を  \{z_n\} とすると  \sum_{k=1}^m x_k z_k
最大になるのは  \{y_n\} を小さい方から順に並べたときで,
最小になるのは大きい方から順に並べたときです。

 \sum_{k=1}^m x_k y_{m+1-k} \leqq \sum_{k=1}^m x_k z_k \leqq \sum_{k=1}^m x_k y_k

数式を使って証明することもできますが,お金で考えるとわかりやすいです。
1 円玉,10 円玉,100 円玉のうちどれかを 1 枚,どれかを 2 枚,どれかを 3 枚使って一番大きい金額を作れと言われたら金額の大きい硬貨を多く使って

 100\times 3+10\times 2+1\times 1=\text{321 円}

とするでしょうし,一番小さい金額を作れと言われたら金額の小さい硬貨を多く使って

 1\times 3+10\times 2+100\times 1=\text{123 円}

とするでしょう。
これを一般化したものが並び替え不等式です。
次のようにして使います。

 x^3\geqq y^3\geqq z^3\, (>0),  x^2\geqq y^2\geqq z^2\, (>0) より

\begin{align*}
x^5+y^5+z^5 &=x^3\cdot x^2+y^3\cdot y^2+z^3\cdot z^2\\
&\geqq x^3 y^2+y^3z^2+z^3x^2\mbox{ ……(5)}
\end{align*}

ムーアヘッドの不等式

ムーアヘッドの不等式は「指数が偏っている方が大きい」という不等式です。

3 変数の場合にしぼって説明します。まずは記号の定義から。

\begin{align*}
&\sum_{\mathrm{sym}} f(x,y,z)\overset{\text{def}}{=} f(x,y,z)+f(x,z,y)+f(y,x,z)+f(y,z,x)+f(z,x,y)+f(z,y,x)\\
&[ a, b, c]\overset{\text{def}}{=}\sum_{\mathrm{sym}} x^a y^b z^c
\end{align*}

いくつか例をあげます。

\begin{align*}
[ 3,0,0] &=x^3y^0z^0+x^3z^0y^0+y^3x^0z^0+y^3z^0x^0+z^3x^0y^0+z^3y^0x^0\\
&=2(x^3+y^3+z^3)\\
[ 2,1,0] &=x^2y^1z^0+x^2z^1y^0+y^2x^1z^0+y^2z^1x^0+z^2x^1y^0+z^2y^1x^0\\
&=x^2y+xy^2+y^2z+yz^2+z^2x+zx^2\\
[ 1,1,1] &=x^1y^1z^1+x^1z^1y^1+y^1x^1z^1+y^1z^1x^1+z^1x^1y^1+z^1y^1x^1\\
&=6xyz
\end{align*}

3 変数の場合, \sum_{\mathrm{sym}} 3!=6 個の項の和で,項が重複することもあります。

ムーアヘッドの不等式は  [ a_1,a_2,a_3]  [ b_1,b_2,b_3] の大小を与える不等式です。

0 以上の項からなる 2 つの広義減少列  \{a_n\},  \{b_n\} を考えます。

 a_1\geqq a_2\geqq a_3\geqq 0,\, b_1\geqq b_2\geqq b_3\geqq 0

これらが次の条件をみたすとき  [a_1,a_2,a_3]\geqq [b_1,b_2,b_3] が言えます。

  •  \sum_{_i=1}^3 a_i=\sum_{_i=1}^3 b_i
  •  j=1,\, 2 のとき  \sum_{_i=1}^j a_i\geqq \sum_{_i=1}^j b_i

等号成立条件は  \{a_n\} \{b_n\} が完全に一致すること,または  x=y=z です。

5 次式なら  [5,0,0 ]\geqq [4,1,0]\geqq [3,2,0]\geqq [3,1,1]\geqq [2,2,1] が言える強力な不等式です。
ただし,対称式にしか使えないので本問では(2)は処理できません。

(3)を示しましょう。 [5,0,0]\geqq [3,1,1] を使います。

\begin{align*}
&2(x^5+y^5+z^5)\geqq 2(x^3yz+xy^3z+xyz^3)\\
&\Leftrightarrow x^5+y^5+z^5\geqq x^3yz+xy^3z+xyz^3\mbox{ ……(6)}
\end{align*}

(4)は  [5,0,0]\geqq [2,2,1] です。

\begin{align*}
&2(x^5+y^5+z^5)\geqq 2(x^2y^2z+xy^2z^2+x^2yz^2)\\
&\Leftrightarrow x^5+y^5+z^5\geqq x^2y^2z+xy^2z^2+x^2yz^2\mbox{ ……(7)}
\end{align*}

(5)(6)(7)を辺ごとに足すと(1)を得ます。証明終わり。


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